オルヴァル

Orval

2025.08.08

オルヴァル

神話から生まれた修道院が醸すトラピストビール

ベルギー南部、アルデンヌの深い森に静かに佇むオルヴァル修道院。この荘厳な修道院で醸造される『オルヴァル』は、世界でも稀少なトラピストビール(※)のひとつであり、その味わいと背景には深い物語と技術が息づいています。

まず、オルヴァルの最大の特徴は「三段階の発酵」による複雑な味わいです。一次発酵でエール酵母を使い、瓶詰め前に野生酵母(ブレタノマイセス)を加えて二次発酵を行い、さらに瓶内で三次発酵を経て熟成されます。この工程により、フルーティーでスパイシーな香り、爽やかな酸味、ドライな後味が絶妙に絡み合い、飲むたびに新たな発見がある奥深い味わいが生まれます。

色合いはオレンジがかった琥珀色で、泡立ちはきめ細かくクリーミー。ホップの香りは力強く、イギリス式のドライホッピング技法を取り入れているため、ベルギービールとしては異例の香り高さを誇ります。アルコール度数は6.2%で、食前酒としても最適。熟成によって味がまろやかに変化するため、数年寝かせて楽しむ愛好家も多く存在します。

オルヴァルのラベルには、指輪をくわえた鱒の姿が描かれています。これは「マチルドの泉の伝説」に由来するもの。1076年、イタリアの伯爵夫人が泉に落とした結婚指輪を鱒がくわえて戻したという奇跡に感動し、「黄金の谷(Val d’Or)」と名付けて修道院建設を支援したという逸話が、ビールの名前とシンボルに込められています。

オルヴァルは、修道士の監督のもとで醸造され、収益は修道院の維持と慈善活動に充てられるという厳格なトラピストの精神に則っています。その真摯な姿勢と革新的な醸造技術が融合したこのビールは、単なる飲み物を超えた文化的な体験を提供してくれる存在です。

一杯のオルヴァルには、伝説、祈り、職人技、そして時の流れが詰まっています。ビールを超えた物語を味わいたい方に、ぜひおすすめしたい逸品です。

■「トラピストビール(※)」とは?

〇トラピストビールは、キリスト教カトリックの厳律シトー会(通称トラピスト会)の修道院で醸造される、特別な条件を満たしたビールです。単なるビールのスタイルではなく、宗教的・文化的背景を持つ「認証制度」に基づいた存在であり、世界でも限られた修道院のみが「トラピストビール」と名乗ることを許されています。

歴史的背景と起源

トラピスト会の起源は1098年、フランスのシトー修道院にさかのぼります。中世ヨーロッパでは安全な飲料水が乏しく、修道院では栄養価が高く保存性に優れたビールが造られるようになりました。修道士たちは巡礼者や貧しい人々にこのビールを振る舞い、信仰と慈善の精神を体現してきました。
フランス革命や戦争による破壊を経て、19世紀以降に再興された修道院では、伝統的な醸造技術が確立され、現在のトラピストビールの礎が築かれました。

認証と条件

■トラピストの認証のロゴマーク

1997年に設立された「国際トラピスト協会(ITA)」は、以下の3つの厳格な条件を満たすビールにのみ「Authentic Trappist Product」の六角形ロゴマークの使用を認めています:

・ 修道院の敷地内で醸造されていること
・ 修道士が自ら醸造するか、監督していること
・ 収益は修道院の維持や慈善活動に充てられること

この認証は、品質と倫理性の両面を保証するものです。

特徴とスタイル

トラピストビールは上面発酵のエールで、瓶内二次発酵(再発酵)を行うため、熟成によって味わいが変化します。一般的にアルコール度数は高め(8〜11%)、風味は濃厚で複雑。フルーティーさやスパイシーさ、酵母由来の香りが特徴です。

専用グラスは聖杯型が多く、香りを引き立てる設計になっています。

現在、世界にトラピスト会修道院は約160ヵ所あり、そのうち9ヶ所でのみトラピストビールが生産されている(2025年時点)。

オルヴァル(ベルギー/オルヴァル修道院)
シメイ(ベルギー/スクールモン修道院)
ロシュフォール(ベルギー/サン・レミ修道院)
ウェストマール(ベルギー/聖心ノートルダム修道院)
ウエストフレテレン(ベルギー/シント・シクステュス修道院)
ラ・トラップ(オランダ/コニングスホーヴェン修道院)
ズンデルト(オランダ/アブダイ・マリア・トゥーフルフト修道院)
トレフォンターネ(イタリア/トレフォンターネ修道院)
ティント・メドウ(イギリス/ティント・メドウ修道院)

■飲み頃温度

〇「オルヴァル」の適温は、10〜13℃位で。冷やしすぎると香りが閉じてしまうため、セラー温度が理想的です。少し高めの温度で注ぐことで、ホップの香りや野生酵母由来の複雑なアロマが開きます。オルヴァル専用の聖杯型グラスを使うと、泡立ちが美しく、香りが広がりやすくなります。グラスを傾けてゆっくり注ぎ、泡を立てすぎないようにするのがコツです。オルヴァルは瓶内二次発酵を経て、時間とともに味が変化します。

出荷直後はホップの香りが強く、爽やかでドライな印象。半年〜1年後には酸味が増し、より複雑でまろやかな味わいに。9ヶ月頃が変化のピークとも言われています。複数本を購入し、異なる熟成期間で飲み比べると、オルヴァルの奥深さがより鮮明になります。

 

▶「オルヴァル修道院」のこと

「オルヴァル修道院」は、ベルギー南部リュクサンブール州のアルデンヌ地方に位置する、深い森に囲まれた静謐な場所にあります。その歴史は1070年、イタリアから来た修道士たちによって始まり、1124年には教会が完成。1132年にはシトー会の修道士が加わり、農園や水源を整備しながら修道院としての基盤を築いていきました。

オルヴァル修道院

■オルヴァル修道院

しかし、「オルヴァル修道院」は幾度となく災厄に見舞われます。1252年の火災、1637年の三十年戦争による略奪、そして1793年のフランス革命では完全に破壊され、長らく廃墟となっていました。再建が始まったのは1926年。修道院の再興と経済的自立のため、1931年にビール醸造が開始され、翌年から販売が始まりました。

「オルヴァル修道院」のビール造りは、他のトラピストビールとは一線を画す独自性を持っています。最大の特徴は「三段階の発酵」です。まず、ペールモルトと少量のカラメルモルトを使った麦汁にホップとキャンディーシュガーを加えて一次発酵を行います。次に、瓶詰め前に野生酵母「ブレタノマイセス」を加えて二次発酵を促し、独特の酸味とフルーティーな香りを生み出します。最後に瓶内で三次発酵を行い、時間とともに味わいがまろやかに変化していきます。

さらに、「オルヴァル修道院」ではイギリス式のドライホッピング技術を採用しており、バイエルン地方のハラタウ種とユーゴスラビアのゴールディング種というアロマホップを袋に入れて漬け込むことで、華やかでスパイシーな香りを引き出しています。この手法はベルギービールでは非常に珍しく、オルヴァルの個性を際立たせる要因となっています。

「オルヴァル修道院」の敷地内にある泉「マチルドの泉」も、オルヴァルの象徴です。伝説によれば、イタリアの伯爵夫人マチルドがこの泉に亡き夫の指輪を落とし、祈りを捧げたところ、鱒が指輪をくわえて現れたといいます。この奇跡に感動した彼女が「ここは黄金の谷(Val d'Or)だわ!」と叫び、修道院の建設を支援したことが、オルヴァルという名の由来です。現在もこの泉の水がビール醸造に使われており、ラベルには鱒が指輪をくわえた意匠が描かれています。

■「オルヴァル」のラベル

「オルヴァル修道院」のビールは、流通しているのは1種類のみ。これは修道院の哲学に基づいた「誠実なものづくり」の姿勢を反映しており、収益は修道院の維持や慈善活動に充てられています。その味わいは、ホップの香りと野生酵母の酸味が織りなす複雑な構成で、熟成によってまろやかさと深みが増すため、ヴィンテージごとの飲み比べも人気です。「オルヴァル」は、単なるビールではなく、歴史・伝説・技術・信仰が一体となった「液体の文化遺産」と言える存在です。

▶「オルヴァル修道院」の歴史(年表)

1070年頃:

南イタリアからベネディクト派の修道士がこの地に到着。修道院設立の準備が始まる。

1076年:

マチルド伯爵夫人が支援し、修道院の建設が本格化。

1124年:

教会が完成。

1132年3月9日:

フランスのトロワ・フォンテーヌ修道院からシトー会の修道士7名が到着。修道院の運営がシトー会に引き継がれる。

1200年頃:

新しい教会が完成。周辺の森林地を開拓し、農園なども整備。

1252年:

大火災により修道院が焼失。再建に約100年を要する。

1637年:

三十年戦争の際に略奪を受ける。

1793年:

フランス革命の混乱の中、フランス軍によって修道院が焼き討ちされ、完全に破壊される。

1926年:

デ・ハーレン一族が土地を提供し、修道院の再建が始まる。

1931年:

修道院の経済的自立のため、ビール醸造を開始。

1932年5月2日:

オルヴァルビールの販売開始(当初は樽のみ)。

1948年:

建築家アンリ・ヴァースの設計による新修道院が完成。18世紀の基礎の上に再建される。

Data

製造元:オルヴァル修道院

スタイル: トラピスト(上面発酵)

原料: 麦芽、ホップ、糖類

アルコール度数: 6.2%

内容量:330ml(瓶)

 

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